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ある土曜日の命拾い
ああ、遅くならないうちに煙草を買いにいかなくちゃ。夜中に出歩くのは面倒だしなあ。
コンビニから戻ってきて、マンションを見て気づく。明かりがついているのは自分の部屋のみ。住人はみんな出かけているらしく、駐輪場の自転車の数も少ない。土曜の夜はみんな用事があるんだろう、と考える。若い一人暮らしが多いようだし。おれは今日は何もかも断ち切って完全オフだもんね。のびのびやりたいことやるもんね。とりあえずゆっくりコーヒーでも飲んで一服いただいて、今日買った本を読んだりぼんやり考え事したりしよう。最近そんな時間もろくにとれてないからなあ。
じりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりり…
日本全国のほとんどの人にはどうでもいいことなのだけれど、僕のマンションでは非常ベルがよく誤動作する。平日は帰りが遅いのでわからないが、土日ずっと自宅で過ごしていると、必ず一回は鳴る。アーマタカヨ、て感じだ。
じりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりり…
小心者な僕は、一応ドアスコープから外を見ることにしている。あわてていそうな人は誰もいない。というか、誰も部屋から出てきたりしていない。あまりにもしょっちゅうなので、もはや誰も出て行こうとしない。
じりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりり…
少し長い気がしたので、小心者な僕は、一応窓を開けてベランダから外を見る。あわてて避難のために外に出たような人は誰もいない。あまりにもしょっちゅうなので、もはや誰も気にしていない。気にしているのはむしろたまたま通りかかった人の方だ。すみませんねウチの非常ベルがやかましくてね、みたいな気持ちになって窓を閉める。
じりりりりりりりりりりりり。
十分ほどたって、人騒がせなベルが鳴り止んだ。全く、誤動作ってどんなシステム積んでるんだ非常ベルってやつは…。読んでいた本はちょうど切りのいいところだし、とりあえず風呂にでも入って、買い置きの缶チューハイ飲もう。ああなんて幸せなひととき。
このあと、よく冷えた缶チューハイを飲みながら、誤動作が多い非常ベルもどうかしているが、マンションに誰もいないことに一時間経たないと気づかない自分も十分にどうかしている、ということに一時間経ってから気づいた。
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