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気が弱い話
僕が嫌いな話をジャンル分けするとしたら、その一つに、「傷口のある話」がある。骨折して腕が変な方向に曲がろうと普通に会話できるが、話の中に「傷口」の存在がうかがい知れるものはどうも苦手で、それだけで 20% は血の気が引いてしまい、頭から離れなくなる。原因はわかっていて、小学生の頃にミニ四駆のボディを軽量化のため削っていたら手を滑らせて指先を切ってしまい、連れて行かれた病院で麻酔を刺される瞬間を記念だと思って見てしまったことによる。
手術室で僕は、医者の合図により突如ものものしく現れた 3 人の看護婦に腕や身体を押さえ込まれ、傷口に直接麻酔が打たれる瞬間を見てしまった。スパッと切れて肉が見えている傷口と、そこに直接注射される麻酔がセットだ。これは強烈だった。うぎゃああああああああああああああああああああああああああ助けてくれえええええええええええええええと泣き叫んだ。母親の話では、次にその部屋に入らなければならなかった子が、僕の悲鳴を聞いて泣いていたらしい。僕としては、医者に「泣きたきゃ泣いていいし叫びたかったら叫べ」と言われたので両方実行しただけなのだけれど。
時代は変わって、先週中頃に、運転免許の更新講習があった。あいかわらずばたばたと仕事をする最中、2 時間ほど抜けて羽を伸ばしに講習を受けに行く。講習内容は、どこかの試験場のおっちゃん先生が違反や事故について話をして、受講者はそれをじいっと聞くだけ。僕は最近ハマッている携帯の「逆転裁判」の、ひとつのシナリオが終わったところだったので、前の席の人の背中に隠れて、次シナリオのデータをダウンロードしていた。
「それともうひとつ!」がおっちゃん先生の口癖で、延々と「もうひとつ」話が続く。その数を数えるのにもあきたころ、「もうひとつ」の話はシートベルトのことになった。「シートベルトをつけるかつけないかで事故の程度が全然違うんです」事故の程度はシートベルトでは変わらんだろ、何ゆーとるのだおっちゃん。話は続く。「気をつけなくちゃいけないのは、シートベルトの付け方です」「シートベルトは、来ている服の襟の下につけてください」「襟がない服のときは、できるだけシートベルトにタオルを巻いておいてください」
「ヘタしたら、頸動脈プチっていっちゃいますよ」
これ以降の話はすこぶる真面目に聞いた。真っ青な顔をして、本当におれにシートベルトをさせようと思っているのかこのおっちゃん、というまなざしをもっておっちゃん先生の目を見ながら。
僕は免許を取得してからほとんど車に乗らなかったため、事故歴や違反歴もなくこの日ゴールド免許を受け取った。免許証が想像していたよりも全然キラキラしていなかったことには遺憾の意を感じるが、この先も僕は、ゴールデン・ペーパー・ドライバーであり続けることと思う。事故や違反がどうこうとかいうより何より、シートベルトをしないために。あの講習以来、ショルダーバッグの肩ひもを心がけて襟の下につけるようにしているが、できればショルダーバッグなんか持ち歩きたくないなあと思うようになってしまった。そろそろ限界かもしれない。明日からトートバッグみたいなやつに変えようか。
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